Column
院長コラム

野球肘について

2024年06月28日

皆様、こんにちは。梅雨も本格化し、ジメジメとした日が続きます。さて、ちょっと間が空いてしまいました院長コラムです。長女から「最近院長コラム更新ないよ~って友達言うてるで」とLINEが来て、申し訳ありませんと思うと同時に見てくださっている方がいるんだとちょっと嬉しかった瞬間でした。

ということで、今日のお題を考えたのですが、プロ野球もシーズンの序盤が過ぎ、地域の少年野球も真っ盛りの最近、肘を痛めた少年が来院頂くケースが続いたため、「野球肘」についてお話しさせて頂きます。

いわゆる「野球肘」ですが、その定義は

投球動作によって繰り返される肘への力学的ストレスによって引き起こされる

・成長期の未熟な肘の骨や軟骨の障害である(骨端炎、骨端部骨折、骨端線離開、離断性骨軟骨炎、疲労骨折)

です。別に野球に限らず、投てき競技などの肘を酷使する競技であれば、少年少女だれしも起こりうるものです。ほっておくと肘関節の変形や神経障害につながる場合があります。

まず、肘の解剖を見てみましょう。図のように、肘関節は上腕骨と前腕骨(橈骨・尺骨)からなり、上腕骨と前腕骨は内側は内側側副靭帯、外側は外側側副靭帯で補強されています。

ここで、もう一つポイント。子供と大人の肘の骨の成熟度の違いです。レントゲン写真にありますように、大人の骨に比べて子供の骨は点線に示したような隙間が内側にも外側にもあることが分かります。この隙間は骨が成長するための成長軟骨の隙間であり、まだ未熟な骨構造である裏返しであります。

さて、ボールを投げる動作では肘関節に外反(前腕を外に捻じる)の力が加わるため、内側側副靭帯が上腕骨に付着する部位に強い牽引力が加わります。大人の場合は骨が成熟しているため、幾多のプロ野球投手が罹患するように内側側副靭帯が切れるのですが、子供の場合は骨が未熟であるためしっかりした組織の靭帯は切れずに残る一方、柔らかい骨や成長軟骨の隙間に障害が起こります。これが内側型野球肘です。また、外側は圧着力が加わってしまうため、上腕骨と橈骨が衝突し、軟骨が剥がれ落ち(離断性骨軟骨炎が代表)外側型野球肘が生じます。

レントゲン検査やエコー検査でこれらの状況が確認された場合、治療は安静(投球禁止)が最も重要となります。教科書的な話になりますが、目安として3~6週間の安静(ノースロー)で経過を見ますが、軟骨の剥離や疲労骨折を伴う場合はこれが長期になることや手術が必要になることもしばしばです。最近はPRPを用いた再生医療も注目されております(ただし、保険適応外)。慌てて復帰すると再発のリスクもあります。ただ、野球はチームスポーツで回りに迷惑かけたくないという気持ちや、レギュラー争いの真っただ中など子供さんの焦る気持ちが先行し、安静を保てないこともしばしばです。子供さんの焦る気持ちを和らげてあげる大人やコーチの理解や環境整備が治療を行う上で非常に重要であることを日々痛感します。ノースロー期間は、痛みや画像所見の軽重によりますが、トスやバッティングは許可できる場合はあり、また下半身のトレーニングは問題ありません。肘が改善した後も、肘に負担がかかりにくいような肩関節周囲の可動域の拡大トレーニングや投球フォームの改善、過多な投球を強いないようにする環境整備は、野球チームの関係者に課せられる重要な任務です。

野球肘は早期発見・早期治療が治療の短縮や将来起こるかもしれない障害の予防に重要です。当院でも簡便にスクリーニング検査を行うことができますので、お気軽にご相談ください。ではまたお会いしましょう。

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