Column
院長コラム
成人期、特に高齢者の側弯症
2023年09月19日
皆様こんにちは。夏休みは思春期を中心とした側弯症をテーマに投稿させて頂いておりました。秋になって涼しくなるまでひと休み…と思っていたのですが、なかなか涼しくなりませんし、涼しくなる前に阪神タイガースがアレをしてしまい(;∀;)(私は巨人で育ってきました…)というわけで、気を取り直して今回は成人期、特に高齢者の側弯症についてお話しさせて頂こうと思います。
高齢者の側弯症の原因は、若年期の側弯の遺残か、成人以後に生じた新規発症の側弯か、いずれかです。成人以降に生じる場合は、椎間板の変性によって曲がってくる場合や、椎体の骨折に伴って曲がってくる場合、パーキンソン病などの神経や筋肉の病気に伴って曲がってくる場合などが挙げられます。
若年者との違いは、脊柱のバランスが高齢者の場合破綻しやすく、立ったり歩いたり、といった日常生活に問題を来しやすいことが挙げられます。
では、高齢者はバランスが破綻しやすいのはなぜでしょうか?
若年者は脊柱の一部が曲がっても、他の部位がそれを補うように曲がってくれるために頭と骨盤で結ぶと帳尻があうように整うことが多いです。関節が柔らかく、体幹や骨盤帯の筋力も強いので、体の一部の問題を補う機能(代償機能といいます)が働きやすいのです。このため、バランスが破綻することが少ないです。
一方、高齢者では体そのもの(脊椎や下肢の関節)が固くなっていたり、筋力が落ちていたりと、代償が働きにくく、脊柱全体のバランスが崩れてしまうのです。
脊柱全体のバランスが崩れたら、どうなってしまうか?Cone of economyという理論があります。これは人間が無理なく立位姿勢を保持するには、足を頂点とした円錐が小さいほうが有利(無駄な力がいらない)というものです。高齢者の側弯症では代償が効かなくなってこの円錐が大きくなってしまい、余分な力が必要となり、筋肉や関節の負担が増えて、痛みが増えて、活動が制限される、悪循環が形成されてしまいます。
ここ15年ほどで高齢者の側弯症、特にバランス不良に対する外科手術の考え方や技術は非常に進歩しました。図のような手術が大きな施設ではよく行われるようになりましたが、その侵襲の大きさや長期経過の問題、莫大な医療費や費用対効果の問題など、手術治療の反省期にも入ってきています。
一方、バランスが破綻してしまった状況でいわゆるお薬や注射、リハビリなどの保存治療も限界があるのも事実であります。先日敬老の日に、高齢化率が日本では29%を超えた、という報道もありましたが、今後高齢者でこういった脊柱バランスの破綻に悩む人を減らすには、こうなる前の介入が重要であることは脊椎外科医・整形外科医みな思っているところであります。
予防で大事なことは、骨折しないこと(=骨粗しょうの予防・治療)、腹部体幹筋力の強化(個々人でできる運動・必要な筋力強化の部位が違いますので、個々のケースに沿ったリハビリテーション介入)、と感じております。
当院では脊柱のバランスの評価や、骨粗しょう症の検査、リハビリテーション介入、いずれも行える体制を整えております。手術以外の方法でできる限りのことを提供できるように心がけておりますので、お気軽にご相談ください。