Column
院長コラム
骨粗しょう症による「せぼね」の骨折~保存治療~
2022年07月06日
こんにちは。
前回の院長コラムで梅雨入りのことを書かせて頂いたのですが、あっという間に梅雨が空けてしまいました。大変蒸し暑い日々が続いておりますが、先日は自家用車のエアコンが故障し暑さと湿気で窓が曇りだし、早朝前が見えなくなって、焦りの冷や汗と暑さゆえの汗が同時に吹き出しました。
さて、先日から不定期更新の骨粗しょう症について。今日は骨粗しょう症による「せぼね」の骨折(骨粗しょう性椎体骨折といいます)の治療のお話ですが、今回はその中でも保存治療のお話をしたいと思います。
骨粗しょう症による「せぼね」の骨折は多くの場合、ある程度背骨が潰れながら2か月ほどの時間をかけて自然に固まります。
黄色矢印が潰れて固まった骨折した背骨。
固まる頃には痛みも緩和しています。
本来自然に軽快することの多い骨折ですが、骨折当初は背部痛が強く出ることもあり
心配になることも多いかと思われます。
固まるまでの過ごし方で、次のような質問を頂くことがあります。
- 動かないほうがいい?
- コルセットはつけたほうがいい?
1.について、人間動かないと、全身の筋肉量が減ってしまいます。例えば、1週間ベッド上に横になっての生活をすると、立つために重要な太ももの筋肉の一つである大腿四頭筋の断面積が平均2%減ったという報告があります。(Marlou L, et al. Diabetes 2016: 2862-2875)
これでは、動かないまま待っているうちにどんどん脚力が弱って寝たきりになってしまうかもしれません。背中は骨折当初は痛いことが多いですが、たとえ横になっていても下肢を動かすことは重要です。
2.については、日本でもコルセットやギプス(これらを外固定といいます)の背骨の変形予防効果や日常生活改善の度合いの有無を調べた研究がなされました。
・固い金属枠のコルセットをする
・柔らかいベルトタイプのコルセットをする
・体にギプスを巻く
・3週間ベッド上で安静にし、その後固い金属枠のギプスをつける
これらの比較検討をしても、はっきりとした椎体の変形の予防効果が証明できたり、骨癒合率を高めたり、日常生活動作のしやすさを改善できたりしたものはありませんでした。(長谷川雅一ら.関節外科 2010, 星野雅俊ら.JSR 2011,千葉一裕ら.JSR 2011)
ただし、コルセットについては個々の装着の仕方で効果が変わってきている可能性もあります。骨折した背骨がある程度潰れてしまうことは防げないかもしれませんが、正しい装着方法で疼痛の緩和を得られることは期待できますので、外固定を装着する際は正しい装着を心掛ける必要があります。
これらをまとめると、
痛みを和らげる(体に合った鎮痛薬を使用したり、外固定を使用したり)治療を併用しながら、
なるべく体力・筋力が弱らないように体をできる範囲で動かすことが望ましい骨折後の過ごし方
になります。
骨折した椎体を早く癒合させる薬剤はあるのでしょうか?
これまで骨粗しょう症に対する薬剤は骨吸収を抑える薬剤が主でしたが、近年骨形成を促進する薬剤が使用されるようになってきました。
テリパラチドとロモソズマブがその代表的な薬剤です。
これらはともに、骨粗しょう症性椎体骨折の予防効果は従来の薬剤よりも優れた報告が多い薬剤です。
また、テリパラチドは実際に骨粗しょう性椎体骨折を起こした直後の方に使用して、椎体の潰れや変形の予防効果や早期の骨癒合が期待できる報告があります。(Miyakoshi N, et al. Case Rep Orthop 2015; 2015:784360, Ikeda S, et al. J Bone Miner Metab. 2020: 44-53)。
当院でも、急性期の骨粗しょう性椎体骨折の患者様で患者様の骨密度や骨折のタイプに応じて、これらの薬剤を使用し早期の骨癒合を目指すことも行っております。ぜひご相談ください。
次の回は、骨粗しょう性椎体骨折の外科治療についてお話しします。